(労働問題に関連する)不正競争防止法における営業秘密の保護

不正競争防止法の「営業秘密」

 不正競争防止法では、「営業秘密」を保護する規定が設けられており、労働者が営業秘密を漏えいする行為は、同法による禁止の対象となります。労働者が使用者から取得し、または開示された営業秘密については、同法により、労働契約の存続中だけでなく、終了後も、使用者は、その不正な使用・開示について、差止請求などの法的救済を受けることができます。
 では、同法で保護される「営業秘密」とは何なのでしょうか。

 不正競争防止法は、「営業秘密」について、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」(2条6項)と定義しています。すなわち、保護される情報は①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3要件をみたす情報に限定されます。これらの要件を満たす情報が不正競争防止法によって保護される情報に当たるわけですが、具体的には、製品の設計図、製造方法、試験データなどの技術情報、顧客名簿、仕入れ先リストなどの営業情報、経営計画などの経営情報人事管理情報などがこれに当たり得ます。

不正競争防止法の営業秘密の保護類型

 営業秘密の保護に関しては以下のとおり、不正競争防止法2条1項4号から10号に規定されていますが、4号から6号が「不正取得型」と呼ばれており、7号から9号は「不正開示型」と呼ばれています。

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
四 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。以下同じ。)
五 その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
六 その取得した後にその営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為
七 営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
八 その営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
九 その取得した後にその営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為

不正取得型と不正開示型の2種類

 不正取得型については、窃取、詐欺、強迫などの不正な手段により営業秘密を取得する行為や不正取得した情報を使用、開示する行為が対象となります。
 不正開示型については、元々適法に営業秘密を知った者が営業秘密を、不正の利益を得る目的や保有者に損害を加える目的(図利加害目的)で使用しまたは開示する行為が対象となっています。このように不正開示型においては不正の利益を得る目的または図利加害目的を必要としており、これらの目的を要求することによって行為に限定が加えられています。労働者が退職後に就業中に知った営業秘密を漏洩する行為はこの類型に当てはまります。

営業秘密が侵害された場合の救済方法

 これらの行為を労働者が労働契約の存続中またはは退職後に行った場合には、営業秘密の保有者である使用者は、差止め(3条)、損害賠償(4条)、信用回復の措置(14条)などの救済措置を求めることができます。また、同法5条では損害額の推定等が規定されており、使用者側の損害額の立証負担について軽減する措置がとられています。さらに、一定の態様の使用・開示等については、刑事罰の対象にもなっています(21条)。

この記事を書いた人

弁護士多田大介

代表弁護士 多田 大介

依頼者との信頼関係を第一に考え、信頼関係に基づき、迅速なサービスを提供致します。おかげさまで大阪弁護士会に弁護士登録して今年で17年目です。趣味はSFやホラーなどの海外ドラマを見たり、歴史の本を読むことです。
代表弁護士 多田大介(登録番号31516)