労働者の労働契約における秘密保持義務

  •  労働者は、在職中、労働契約に付随する信義則上の義務の一つとして、使用者の営業上の秘密について秘密保持義務を負っています(労働契約法3条4項)。
     労働者が秘密保持義務違反をしたときは、就業規則の規定に従って、懲戒処分、解雇、または、債務不履行・不法行為に当たるとして、使用者から損害賠償請求がなされることがあります。また、根拠が明確な場合は、使用者からの履行請求(差止請求)も可能とされています。
  •  労働者の退職後については、秘密保持義務が労働契約に付随する義務ですので、当然には継続して効力をもつわけではありません。退職後にも秘密保持義務を元労働者に対して課す(すなわち、秘密保持義務違反を理由に差止請求や債務不履行に基づく損害賠償請求をするためには)、就業規則の具体的な規定や労働者との個別的な特約が必要となってきます。一般的には労働者の入社時あるいは退職時に特約をすることが多いでしょう。
  •  ただ、労働者との個別的な特約において、退職後の秘密保持義務を具体的に定めたとしても、制限をあまりにも広範囲に認めると、今度は労働者の職業選択の自由や営業の自由を制限することになってしまいます。制限が広範にすぎれば、秘密保持義務を巡って紛争になった場合、裁判所によって、特約の一部または全部が公序良俗に反するということで無効と判断される可能性があります。そこで、特約にあたっては、約定の必要性や合理性について、公序良俗に反しないか吟味しておく必要があります。 
  •  上記のような明示の約定がない場合には、労働契約終了後は付随義務としての秘密保持義務も同時に終了すると考えられるため、原則として労働者が秘密保持義務を負うことはありません。ただし、一定要件のもと、不正競争防止法による規律はありますが、範囲はかなり限定されたものになります。

この記事を書いた人

弁護士多田大介

代表弁護士 多田 大介

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代表弁護士 多田大介(登録番号31516)