相続における持戻免除の意思表示

持戻免除の意思表示とは

持戻免除の意思表示とは、特別受益において、被相続人が遺贈または、贈与した額を持ち戻さなくてもよいとする意思表示のことです。明示の場合黙示でなされる場合がありますが、明示の意思表示で行う場合は、これらの内容をある程度は理解した上で行う必要があります。
このように特別受益に属する生前贈与又は遺贈について、被相続人が、持戻しを要しない旨の意思表示をしたときは、持戻しは免除されます。

持戻免除が認められるのはどうしてか

持戻しについては、相続人間の公平よりも被相続人の意思を尊重しようとするものです。生前贈与に関する持戻免除の意思表示については、特別な方式が要求されていません。ですので、明示でも黙示でもかまいませんし、必ずしも贈与と同時になされる必要もありません。
この持戻免除の意思表示を認めると贈与や遺贈を受けた相続人はその分だけ被相続人の財産を多く取得することとなるものですので、相続人間の実質的公平の見地からは、それだけ多く利益を取得するだけの合理的理由が必要となります。

黙示の意思表示について

明示の意思表示がある場合は、それほど争いにはなりませんが、黙示の意思表示があったかどうかについては、争いになることがあります。
法律上の要件があるわけではありませんが、特に生前贈与においてこの持戻免除の黙示の意思表示を認めるには、贈与の対象や価額、贈与に至る具体的理由、被相続人と贈与を受ける相続人との間の具体的生活実態や社会的地位、収入、資産の具体的内容等から持戻しを免除して受贈者たる相続人にそれだけの利益を確保するだけの合理的理由があるか否かを他の共同相続人との実質的衡平の観点から慎重に判断していくことになります。

裁判例

たとえば、東京家審平成12年3月8日は、黙示による持戻免除の意思表示を認定するためには、一般的に、当該贈与相当額の利益を他の相続人より多く取得させるだけの合理的な事情のあることが必要であるとしています。
贈与額が相続分の価額を超えていることに着目して、持戻免除の意思表示が認められた裁判例や生前贈与を受けた相続人が家業の後継者であったり被相続人の面倒を見たりすることが動機、背景にあり、持戻免除の意思表示が認められた裁判例などがあります。

この記事を書いた人

弁護士多田大介

代表弁護士 多田 大介

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代表弁護士 多田大介(登録番号31516)