自己破産申立と免責許可決定

自己破産申立の手続

■自己破産とは

 返済額が収入以上となった場合や収入がなくなったなどの事情により、借金返済ができなくなり、支払不能の状態にあれば、弁護士が債務者を代理して裁判所に自己破産を申し立て、免責許可を得ることにより、すべての債務について弁済の責任を免れることができます。ただ、例外的ですが、免責不許可になった場合や税金の滞納分は免責されません。

 めぼしい財産がない個人の場合のほとんどは、自己破産手続の中でも、財産の換価、配当の必要のない「破産同時廃止手続」と呼ばれる簡易な手続で進みます(裁判所への自己破産申立から免責許可を得て終結まで2か月程度です)。一方、事業者や会社の場合は、破産管財事件となり、破産管財人(弁護士)が選任され、資産が調査され、資産があれば換価されて配当の手続がとられます。なお、どのような場合に同時廃止事件となり、破産管財事件となるのかは、同時廃止事件と破産管財事件の振り分け基準(大阪地方裁判所)があります。
 住宅ローンを支払っている住宅がある場合
につきましては、住宅ローンの残高と住宅の現在価値が重要になってきます。明らかにオーバーローンの場合(抵当権付の残債が固定資産評価額の2倍超)であれば、同時廃止事件となります。住宅のほうが価値がある場合は、管財事件となり、任意売却可能であれば、住宅が換価されて配当に回されることになります。詳しくは弁護士にご相談下さい。

■破産管財事件とは

 株式会社をはじめとする法人が自己破産する場合はすべて破産管財事件になり、破産管財人(弁護士)が選任されることになります。法人代表者のみの自己破産申立の場合も破産管財事件になるのが原則です。
 個人事業主で現在も個人事業を営んでいる場合は、原則として破産管財事件となります。ただ、負債額、事業の内容、営業していた時期及び期間などにより、同時廃止事件として手続が進む場合もありますが、これは例外的なものになります。個人事業主でも事業を継続しながらの破産申立は基本的にはできません。
 また、大阪地方裁判所の運用では、会社員など個人事業主ではない個人の場合でも50万円を超える現預金を申立時に所持している場合は、破産管財事件になります。但し、弁護士費用、病院代、子供の学校の授業料などどうしても必要な支出については有用の資として認められることがあり、有用の資に充てた結果、申立時の現預金が50万円以下となった場合は、破産管財事件とはなりません。
 破産管財事件の場合は、会社代表者は破産管財人との打ち合わせや債権者集会に出頭する必要があります。破産管財事件になった場合でも換価すべき財産がなく、債権者に対する配当がなければ、異時廃止といって速やかに終結しますが、そうでない場合は、不動産や自動車などの財産の換価、債権者への配当手続などで終結までに6か月以上はかかることになります。

■同時廃止事件と管財事件の振り分け基準

 破産管財事件と同時廃止事件との手続選択については、一定の換価すべき財産が見込まれる場合は破産管財事件となります。すなわち、大阪地方裁判所では、同時廃止事件の申立書及びその添付書類において、①所持する現金及び普通預貯金の合計額が50万円を超えると認められる場合または現金等以外の12項目の個別財産(保険の解約返戻金、積立金等、賃借保証金・敷金の返戻金、貸付金・求償金等、退職金、不動産、自動車、上記以外の動産、上記以外の財産、近日中に取得することが見込まれる財産、過払金)について項目ごとの合計額が20万円以上となる項目がひとつでもあると認められる場合には、破産管財事件となります。
 つまり、現預金の合計額が50万円までで、各個別財産の価値が20万円未満であれば、原則として同時廃止事件となります。各個別財産の価値が20万円未満であれば、現預金との合計で99万円を超えていても原則として同時廃止事件となりますが、総額が大きくなれば、管財人による資産調査が必要と判断されて、管財事件に移行する場合もあります。

 同時廃止事件と破産管財事件との振分基準上は、実質的危機時期以降に個別財産を換価して(例えば生命保険を解約して解約金を受け取った場合など)破産手続開始の申立て時には現預金として所持していたとしても、換価前の個別財産とみなす運用とはなっていません。また、過払金についても同様に申立て時に過払金が回収済みである場合には、実質的危機時期以降に回収して現預金になったものであっても、あくまで現預金として取り扱うことになります。
 このように個別財産を換価して現金化している場合は、単純に現預金としてみればよく、個別財産の20万円の枠内かどうかということを考慮する必要はなくなりました。

■免責許可とは

 免責とは、破産手続終了後に破産者が残余の債務について弁済の責任を免れる制度です。簡単に言えば、借金を法的に返済しなくてよくなることです。現行法上は自己破産の申立と同時に免責許可の申立をしたものとみなされています。
 免責許可の申立てがあった場合、裁判所は、免責不許可事由がない限り免責許可決定をすることになります。

 個人の自己破産の申立てで実務上よく問題となる免責不許可事由には以下のものがあります。

  1. 債権者を害する目的で、破産財団に属し、または属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をした場合は免責不許可事由にあたります。典型的には、いわゆる「財産隠し」つまり、本来であれば債権者に対して換価して配当されるべき換価価値がある財産を、債権者から隠す行為がこれにあたります
  2. 以前に破産申立をして免責許可決定を受けている場合は、免責許可確定の日から7年以内に破産の申立(免責許可の申立)をした場合は免責不許可事由となります。
  3. 最初から処分目的を持ってクレジットで商品を購入し、直ちに低価格で売却・質入れする行為は免責不許可事由にあたります。破産者自身が返済に困ってこのような行為をすることもよくあります。クレジットカードを使って新幹線のチケットを購入して換金するような行為がこれにあたります。ただし、破産手続開始を遅延させる目的がある場合に限られますので、支払不能時期より相当前のものは遅延させる目的がないこともあります。
  4. もっともよく問題となるのは浪費です。浪費とは、破産者の職業、収入、資産状況に照らして、社会通念上、不相応の消費的支出をするすべての場合をいいます。具体的には、クラブなどでの高額な飲食費の支出、生活に必要のない高額品の購入、風俗、ギャンブル、パチンコ、最近ではスマホやPCゲームの課金などが問題となります。
  5. 破産手続開始の申立があった日の1年前の日から破産手続開始決定があった日までの間に、破産原因となる事実があるにもかかわらず、その事実がないと信用させるため、詐術を用い、信用取引により財産を取得する行為も免責不許可事由となります。財産状況について積極的に虚偽の事実を告げた場合のみでなく、消極的に黙秘した場合であっても問題とされることがあるので、十分な注意が必要です。
  6. 破産者手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、または虚偽の説明をしたことは免責不許可事由となります。

 ただし、仮に上記のような免責不許可事由があったとしても、裁判所はその裁量により免責許可決定をすることができます(裁量免責)。裁判所は、破産者の行為態様の悪質性やそのような行為に至った経緯、債権者の利益を害した程度、当該債権者の意向、破産者の反省の程度、破産者の生活再建への努力、生活態度などの事情を総合的に考慮して免責許可するかどうか決めることになります。

 したがって、仮に免責不許可事由が認められる場合は、申立人としては、裁量免責を受けられるように上記のような事情を説明しておく必要があります。ただ、実務上は免責不許可事由があったとしても、ほとんどの場合は裁量免責されており、免責不許可となるのは相当悪質な場合に限られると言えます。免責不許可になる可能性が一番高いと思われるのが、ギャンブルや浪費ではなく、裁判所や管財人の調査を拒むこと(あるいは申立代理人である弁護士と音信不通になってしまう場合)が上げられます。調査を拒むということは、財産隠しも疑われますし、この債務者はまったく反省していないと判断されていまいます。もっとも、軽い免責不許可事由の場合は反省文の提出で済む場合もあります。それよりも重い場合は、集団免責審尋になることもあります。

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この記事を書いた人

弁護士多田大介

代表弁護士 多田 大介

依頼者との信頼関係を第一に考え、信頼関係に基づき、迅速なサービスを提供致します。おかげさまで大阪弁護士会に弁護士登録して今年で17年目です。趣味はSFやホラーなどの海外ドラマを見たり、歴史の本を読むことです。
代表弁護士 多田大介(登録番号31516)