親権の内容(懲戒権と児童虐待)

親権とは

 親権とは、父母が未成年の子を一人前の社会人となるまで養育するため、子を監護教育し、子の財産を管理することを内容とする親の権利義務を総称をいいます。
 名前からすると権利のように捉えられがちですが、むしろ、親の子に対する義務といえます。戦前の家父長制の時代は親権は極めて強大なもので、まさに親が子に対して支配権をもっていました。しかし、現代においては、親権は親の子に対する支配権では決してなく、子の利益のために行使されるべきもので、親が子に対して負うべき責任、義務の総称と考えるべきです。なお、ドイツでは、従前あった親権という用語は廃止されて、親の配慮権という言葉に改められたそうです。
 親権の内容としては、具体的内容は大きく2つに大別できます。ひとつは、子を身体的に監督・保護し(監護)、また精神的発達をはかるために配慮をする(教育)という身上監護の権利義務で、もうひつとは、未成年子が財産を有するときにその財産管理をし、その財産上の法律行為につき子を代理したり同意を与えたりする権利(財産管理権)です。以下でご説明します。

 

身上監護権

  身上監護については、民法上では、その内容として次の三つの権利が規定されています。

(1)居所指定権
 民法821条は「子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。」と規定しており、親は、監護教育の任務を果たすために、子がどこに住むかを決めることができます。ただ、子がこの規定に従わない場合に、親が居所を強制的に決めることはできませんし、従わないことに対して何か制裁が規定されているわけではありません。法的にはあまり意味のない規定と考えられています。

(2)懲戒権
 民法822条は、「親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。」と規定しています。平成23年改正前の条文には、懲戒場に関する規定がありましたが、懲戒場に相当する施設は設置されておらず、改正時に削除されました。平成23年までこのような規定が残っていたことが驚きです。
 懲戒権の行使と児童虐待との関係が問題となることがありますが、懲戒権の行使は、子どもの監護教育上必要合理的な範囲の実力行使(子の利益のために愛情に基づくものであることが当然の前提となります。)は特段法的責任(刑事上、民事上の責任)を問われないというにとどまり、合理的な範囲を超える懲戒行為は虐待行為とみなされます。虐待行為ということになれば、親権喪失原因にもなりますし、刑法上の暴行罪、傷害罪が成立することになります。

(3)職業許可権
 子が職業に就くかどうかは、親権者の許可を要するとされています。許可の方式については特に規制はなく明示黙示を問いません。子が親権者の許可を得れば、その営業に関しては、成年者と同一の能力があることになります。ただし、未成年者が自分で事業をする場合に限られ、他人に雇われて働く場合は、許可を得ても未成年者が成年と同一の能力をもつものではありません。

(4)身分上の行為
 親権者は、子のなすべき身分上の行為については代理権、同意権はありません(身分上の行為は当事者自身の意思決定に基づくものというのが民法の建前なので)が、特別に規定がある場合、たとえば嫡出否認の訴えの被告、認知の訴えの提起、15歳未満の子の氏の変更、離縁の代諾及び訴えの提起、相続の承認・放棄などについては、子に代わって親権者が代行することになります。

 

財産管理

 子の財産管理権及び義務については、民法824条本文が「親権を行う者は、子の財産を管理」するものと定めており、親権者が子の財産を包括的に掌握して管理するものとしています。
 ただし、未成年子と親権者がともに相続人となる遺産分割事件など、親権者と未成年子との利害が相反するときは(利益相反行為)、親権の公正な行使が類型的に期待できませんので、当該事件に限って、親権者には、代理権、同意権はなく、子のために家庭裁判所で特別代理人を選任してもらうことになります。

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この記事を書いた人

弁護士多田大介

代表弁護士 多田 大介

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代表弁護士 多田大介(登録番号31516)